▶給食・食育研修会

日時:令和7年6月30日(月) 10:20~15:00

場所:ホテル青森3F「孔雀の間」及び オンライン(Zoomミーティング)

講師:国立大学法人上越教育大学大学院 学校教育研究科

発達支援・心理臨床教育学系 教授 野口 孝則 氏

目的

子どもを取り巻く環境が目まぐるしく変化している中で、給食・食育等を通して健やかな成長、発達を支えるべく、さらなる取り組みが求められている。本研修は、子どもの「食」の視点から豊かな人間性を育み、子どもに与える栄養の意義や発育期の栄養の特性を総合的に理解することを目的に開催する。今年度は子どもたちの喜びや子どもの人権を大切にしながらwell-being(心身ともに満たされた状態)を高める食育・食事とは何かについて学ぶ。

 

講演の概要は以下の通りである。

講演1・2 「well-beingと保育の質向上~子どものwell-beingを高める食育実践~」

 

  • 「みんなで食べると美味しい」を実感できる毎日の食事を大切に

園でお腹いっぱいに食べることができる毎日の食事は、子どもたちが「食べることの楽しさ」を実感しながら成長していく大切な機会である。これは、食事や食べ物を覚える等、カラダで覚える。午前中の遊びや学びによる活動で食べたい気持ちを高めるためにお腹を空かせることは日常生活の中で毎日できる食育であり、お腹が空いて食べる食事の美味しさが高まる。一方、イベント型食育は「気づき・きっかけ・思い出」の3要素から構成される。毎日の食事には、それぞれの季節や行事に合わせた献立が考えられ、毎日違った食材を用いて、さまざまな調理方法を駆使した料理が安全に提供される。子どもの口に入れたら良いというものではなく、苦しみながら食べることでもない。楽しく、喜びながら食べることが食育につながる。そのような食事を食べながら、子どもたちは食べ物の大切さを学び、友達や保育者と一緒に食べることを通じて豊かな心を育んでいく。

 

  • 「みんなで食べることの大切さ」を理解する

食事は栄養補給の手段だけではなく、社会的な経験を積み重ねる場面でもある。とくに幼児期はいろいろなものを食べて周囲の人と一緒に食べることを通じてさまざまな経験や学びを得ることができる。

友だちや保育者と一緒に食べることで、子どもたちは食べることが楽しい!と実感し、毎日の楽しい食事を積み重ねることで食べる楽しさを感じる。無理強いは絶対にしてはいけない。また、食事の時間は感謝の気持ちをもつこと、食器と食具の扱い方を身につけること、それぞれの料理の食べ方について基本的な作法を身につけることなど食事の時間は食事マナーを身につける大事な場面でもある。食事のマナーは、先生によって内容が違うと子どもたちは混乱するため、食事のマナーに関して何をどう改善(共通に)したいのか栄養士と保育士が連携することが必要。

偏食がある子も、友達が美味しそうに食べていると食べてみようという気持ちになる。偏食をこれ以上増やさないために楽しい雰囲気の中で食べることは、苦手な食材にも挑戦するきっかけを与えてくれ偏食予防につながる。

 

  • 「みんなで食べると美味しい」の気持ちを高めるために保育室と給食室でできること

食事の前にこそ、食事に向かう気持ちを高めるために「いい匂いがしてきたね」「たくさん遊んだからお腹が空いてきたね」「今日のお給食は何かな」「美味しそうだね」「早く食べたいね」など食欲を増す言葉かけをおこなう。そのためには、保育者が食いしんぼうの保育者さんを演じることが重要である。

園の給食で出される食材の実物大の掲示物があると子どもたちの興味も高まる。献立立案時には、「白身魚のフライ」でも、実際に納品された魚が分かった時点で、子どもたちには正しい魚の名前を伝えていくことで食事の雰囲気づくりにつながる。

今日のニンジン、甘くて美味しいなぁ」などのように、大人も子どもと同じものを食べてから食品名とその食品が美味しい理由を丁寧に言葉にしていく。ただし、「美味しい」の強要はしてはいけない「美味しさ」や「楽しさ」は子どもたちが実感するものである。

「○○ちゃんは△△が大好きなんだよね」など子どもたち一人ひとりの食事へのこだわりを覚えて、「今日は大好きな食べ物が入っていて嬉しいね」と食べる喜びを拡げていく。しかし、「○○くんの嫌いな△△が入っているよ。今日こそは食べるよ!」などといったネガティブな発言はしてはいけない。

安全な食事を提供することは普通のことである。子どもたちの毎日の「食べっぷり」は、保育士の言葉で大きく変わるため、栄養士と保育士が連携し正しく評価をして献立を改善し続ける。献立こそ「子ども中心である。

(例)献立名:「3つの野菜の味噌汁」 → 3つの野菜とは何かな?と子どもたちに問い、探してもらう

 

食物アレルギーをもつ子どもたちがみんなと離れて「ひとりぼっち」で食べる「悲しい環境」を作っているのは献立作成者(栄養士)、その環境を改善できるのも献立作成者(栄養士)である。「みんなで食べると美味しい」を実現できるように配慮した献立を立案し、「みんなで食べると美味しい」の環境を整備することが求められる。

今後も、保護者の多様性やアレルギー児の増加による給食の難しさは増え続ける。そのような中でも園の給食のねらいは、強制するのではなく、挑戦する気持ちになるように促し、食べることができるものを1つずつ増やしていくことである。

 

  • 毎日の食事を中心とした食育の推進 ~保育のなかの食育~(保育者向け)

保育所等における食育とは

食事・運動・睡眠を繰り返しながら、子どもたちは毎日の生活リズムを形成している。特に保育所等における食事(給食やおやつ)は、食欲を育む場として重要であり、おなかがすいて食べる食事のおいしさを実感しながら、食への興味・関心を高めていくことができる。栄養士が作成する献立は、「おいしさと健康」が両立するものである。多様性の世の中でそれぞれの園が今年度の目の前の子どもたちを中心とした献立を展開・改訂していき、子どもの胃袋を丁寧に満たすことが最優先すべきことである。

子どもは、親や保育者から「おいしいね」と言ってもらいながら食欲が満たされることで、食の満足感とともに人との共感を体験していく。また、自立的な食事の積み重ねがもととなって、手づかみ・スプーンやフォークなどの食具を使って食べるなどの能力を発達させていく。箸を使う時期は園の方針に委ねられ、なぜこの年齢から箸を使って食事をするのか明確にする必要がある。

このように、保育所等の食事は、子どもが安心感や基本的信頼感のもとに、自分でやりたいこと(主体的な活動、欲求や挑戦)を増やし、保育者はもちろん、給食の先生が「〇〇を食べることができてすごいね」と褒めて達成感や満足感を味わいながら、自分への自信や自己肯定感を高めていくことができる。

 

  • 参加者からの質問に対する回答(※昨年と同様に講演の後半は質疑応答の時間に)

(内容省略)